売上値引きの会計処理は?税務についても気にかけてください!!【パート2】

売上値引きも取引先に対する交際費、寄付金と認定されないために、下記のことは理解しておいた方が良いでしょう。
1. 値引きをする正当な理由があるか
・業績悪化を支援するために行った売上値引
・特定の覚書による算出根拠が不明確な売上値引 等
その他の判例を見ても、経済的利益の供与、つまり、寄附金ですよとされる場合や売上値引額の算出根拠が不明確な場合が多くあります。
そのため、社内基準を使用せずに値引きした場合、その理由を明記し保管しておくことは必ず実行していただきたい内容になります。
この「正当な理由」があるかないかは、交際費実務の分岐点という観点からとても重要になります。

2. 値引きの額が社会通念上妥当であるか
社会通念上という表現は、税務上ではかなりの頻度で使われていますが、はっきりとした基準が明記されていません。東京、仙台、札幌など地域によって物価も商習慣など一つとっても異なる部分があります。一般的には、「社会で一般的に受け入れられている常識や見解の事で、「常識的に考えれば」とか「世間の常識」という意味」を社会通念上と言いますが、それを前提に考えると、出来るだけどの地域でも「それはないよね」という値引きでしたら「ダメ」ということです。例えば、商品原価に食い込むほどの値引き、これまでの値引率よりも更に高い値引き率にしたなど、それは一般的ではないのでないかと考えます。
そのために、値引きの算出根拠がしっかりしている、つまり、誰が見てもわかる一定の基準がある、ということが重要になってきます。
具体的には、
①売上高又は売掛金の回収高に対して一定率(一定金額)
②売上高の一定率(一定金額)、
③これらの基準の他得意先の営業地域の特殊事情、協力度合い等を勘案して定められる基準に基づく支出

というのが値引きや割戻しの要件とされるものと考えます。
このため、適当な基準で売上先にお金を交付すると、謝礼として交際費等に該当する、といった指摘が税務調査でなされる可能性があります。
よって、これらを十分に注意して処理し、関係資料を整備しておく必要があります。
割引についても値引きと全く同様に、上記のような点が整備されていれば正当な商慣習として認められることで税務上なんら問題はありません。

そこで、商品原価に食い込むほどの値引き、これまでの値引率よりも更に高い値引き率にしたことが、つまり、「社会通念上妥当ではない」と考えられるため、実際に社内で作成された基準ではなく、大幅な値引きを行った場合には、上記1の「値引きをする正当な理由があるか」をもとに判断した。という証拠がなければいけません。つまり、その判断となる事情は何か、そして誰がどのような理由づけで値引きするという結論を出したのかを証拠書類として税務調査の際に提示することとなるでしょう。
社内で作成された基準に該当しないからと言って、交際費や寄付金を判定するのではなく、まずは、「値引きをする正当な理由があるか」ということを証拠や事実によって確定させるということになります。
下記は、①値引後の金額が粗利の中で納まる事例と、②値引後の金額が粗利の中では収まらず、原価をも下回る事例です。
【事例】
① 売価5,000円、原価2,500円の物を、割引(60%)3,000円した後、2,000円で売却
→2,500円が値引き、500円が交際費
② 売価5,000円、原価2,500円の物を、割引(40%)2,000円した後、3,000円で売却
→2,000円が値引き
取引の内容)
上記は、会社が株主に対し、自社の経営する飲食店で使用可能な割引券を株主優待割引券として配布し、通常販売価額と受領金額との差額を全額売上値引きとする。という内容です。

交際費に該当するか否かの要件は、平成15年 9月9日東京高等裁判所判決(萬有製 薬事件 Z2 53-9426)で下記の判断 がなされてから、三要件説が、交際費等の課税要件として多く用いられるようになっていますので、それを参考に下記のとおりとしました。
① 支出の相手先が「事業に関係ある者等」
② 支出の目的が事業関係者等との間の親睦の度を密にして取引関係の円滑な進行を図ることであるとともに
③ 「行為の形態」が接待、供応、慰安、贈答 その他これらに類する行為であること
上記が判断材料となります。
① 支出の相手方が株主、すなわち会社の出資者として事業に関係ある者等であり、
② 支出の目的も、株主の歓心を買って株主の地位を維持する関係を構築することにあり、一般株主を安定株主とし、また、一般株主ひいては市場の好感を得て株価を安定、上昇させるなどして、事業の円滑な遂行を図ることにあります。
③ 株主優待割引券を一般顧客とは別に無償あるいは、割引により配布して値引きを行うことは明らかに株主を対象として接待供応行為を行っていると認められます。

そのため、接待交際費に該当することとなります。
ただし、交際費に該当する部分は、受領金額が原価相当額に満たない場合の、その満たない金額に相当する金額です。
原価相当額を超える金額を受領している場合は、単純な値引きとなります。

(補足:供応とは、① 酒食を供して他人をもてなすこと。 ② すぐに他人の言葉や行動に賛成すること。迎合すること。をいいます。)

寄附金の条文には、交際費に該当するものを除くという記載があります。つまり、上記交際費の3要件に該当しないものは、続いて寄付金かどうかの判定に入ることになります。

寄附金については、下記に条文を記しましたが、ポイントを簡単に言いますと、
寄附金の額は、
① 寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもつてするかを問わず、
② 金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与(広告宣伝、交際費、接待費、福利厚生費とされるべきものを除く)をした場合、
③ 贈与、供与された金銭の額 
若しくは、
金銭以外の資産の贈与時における価額
又は経済的な利益のその供与の時における価額によるものとする。
値引き行為自体が、「事業関係者等との間の親睦の度を密にして取引関係の円滑な進行を図る」という交際費の②の要件に合致していない場合は、交際費とならず、寄附金になるかどうかの判定をします。そして該当していないとなると、その経済的利益が寄附金の額となるという税法上の理論が成り立ってしまうのです。
「事業関係者等との間の親睦の度を密にして取引関係の円滑な進行を図る」というと、わかりづらいかもしれませんが、値引きすることで、その会社との取引金額が従来までと比べ増加し、利益も増加する。ということです。または、他社と比べ、有利な条件で取引することができるようになり結果として利益がアップする。ということになります。
つまり、これに該当すると「交際費」になります。
もちろん、交際費の②の要件には、「取引関係の円滑な進行を図る」としているため、進行を図る行為までで、結果までは追求していないと捉えることが出来ます。
その値引きをするということについては、つまり「そこまで当然のこととして考える」との意味合いがあるものと税務上は考えています。
これに該当しなければ、値引きした金額は、「寄附金」となるでしょう。
また、会社の決められた基準を無視して行ったとすれば、極端にとらえれば本人に対する「給与」となるでしょう。
この給与課税については、社員割引の内容とも関わりますので②社員割引という考え方もあるので、その点も注意が必要です。

3. その協議の過程に恣意性がなく明瞭であるか等が問題
「一定の基準がある」ということで、恣意性がなく明瞭であるとの判断が出来るのではないかと考えます。ただし、その一定の基準が作成される協議の過程で、企業間の力関係により偏った契約になったり、同族関係による協議であった場合で結果として恣意性が入る余地ありと判断される協議の内容になったり、など、税務とは直接関らないかもしれませんが注意が必要です。

売上値引ではなく、仕入値引きも考え方は同じです。また、仕入値引きの場合は、仕入先に対し、下請け法や独占禁止法に違反することがあるので注意が必要です。これについても、「合理的な理由なく、価格低減を 要請していませんか?」とのパンフレットを出している中小企業庁・公正取引委員会から出ている③中小企業庁・公正取引委員会という資料を参考にして下さい。
「値引き算出根拠」は、社内で決まられたもので構わないと考えます。
但し、上記のように、協議によって決定される事項と考えますので、その協議の日時、内容、参加者等を明らかにした議事録等を作成し、証拠書類として保管していただくことが賢明でしょう。

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